小夜に接触することのできた人物を頭の中で数えていると、廊下をバタバタと駆ける音が風呂場の前でピタリと止まった。
「志信さん!!真尋の様子が……!!」
容態の急変に焦る正宗の報告を受けとると、すかさず指示を飛ばす。
「直ぐに祭壇を用意しろ!!朧を呼べ!!」
正宗は再び走り出すと、使用人達に祭壇を用意するように取り計らいに行った。
(小夜、お前は俺のために橘をくれたのか?)
問い質しに行きたいのに、今は他のことを考えている余裕がない。
急いで身体を清め狩衣に着替えると、自室で“月天の儀”の準備が終わるの待つ。
……橘は手に入った。
真尋が目覚めさせられるかどうかは、俺の力にかかっている。
「準備、整いました」
「ああ」
瞑想を中断し、正宗を引き連れ準備の整った月渡りの間へと向かう。
まだ太陽の上る昼の最中である。今日は満月でもない。帰りを待つ愛しい女の姿もない。
それでも俺は祈らなければならない。
新たに咲いた橘の花に誓って、真尋を目覚めさせてみせる。
(真尋、死ぬな)
……そちらに行くにはお前はまだ若すぎる。



