「細い足だな」
恥ずかしくなって両手で顔を隠す。その様子を見られて、クスリと笑われた気がした。
(もう、何なのこの人!!)
着物を着ていなければきっと恥ずかしさで身悶えしてジタバタしていたことだろう。
助けてもらったという絶対的な弱みを握られていなければ、逃げ出していたに違いない。
男性は外れかけていた足袋の留め金を嵌め直すと、草履を足に滑らせた。
「次は気をつけろよ」
そう言うとクルリと背を向けて、その場を立ち去ろうとする。
「待って!!」
まだ、お礼もまともに言っていないのに。
引き留めようと動かした足にカサリと固い感触して、違和感を覚えて足袋に目をやる。
足と足袋の隙間にチューインガムの包み紙が差し込まれていた。
包み紙を開いてみれば、そこに書かれているのは携帯の番号だった。
再び顔を上げると、彼の涼やかな姿は既に見えなくなっている。
「何だったんだろう。あの人……」
仄かに香る梅の花のような残り香だけが、夢のように消えていった彼の存在を主張する。
撫でられた頬が、どうしてか熱かった。
……結局、私は恩人の電話番号を捨てるわけにもいかず、ただのガム包み紙をしばらく持て余すことになった。



