必要なものが揃っていることを確認して、最低限の荷物を入れたスーツケースの蓋を閉じる。
離れで暮らした8ヵ月の間に随分と荷物が増えていて、スーツケースに収まらなかった分は纏めて畳の上に置いておいた。
それらと一緒に桜色の着物と手紙を残していく。
手紙には黙って出て行く無礼を許して欲しいということと、感謝の念を伝える文面をしたためた。
スーツケースを持って畳から立ち上がると、ガランとした室内を広く感じた。
“行くのね”
豊姫が最後の別れを言いにやって来た。
橘川家を離れるということは志信くんとの別れだけでなく、豊姫との別れも意味していた。
「うん、行くわ」
“寂しくなるわね……”
珍しくしんみりとした空気を漂わせている。
「ねえ、豊姫。私、志信くんとひとつになって分かったことがあるの」
……別れを言う前に私には豊姫に伝えなければならないことがあった。
それが、“カグヤ”として私に残された最後の仕事だ。



