「これが……橘?」
“そうよ”
「小さい花ね……。とっても可愛い」
橘の名を冠する一族と関わっているというのに、実を言うと橘の花の実物を一度も拝んだことがなかったのだ。
橘は黄色の雄しべを取り囲むように、5枚の白い花弁が星型に並ぶ白くて丸い、可愛らしい花だった。
豊姫は私に橘を譲り渡すと、何も言わずに掃除をしたばかりの寝床に帰っていった。
ベッドで寝ている志信くんの胸元に橘を運ぶと、間もなくすうっと溶けるように消えてなくなった。
……橘は本来の主に還ったのだ。
志信くんの頬にそっとキスを落とす。
……枯れない花をあげよう。永遠に消えない白い橘の花。
この橘は私の一部だ。志信くんに持っていて欲しい。
橘が胸に咲いている限り、どこにいたとしても私はあなたの傍にいる。
「好きよ、志信くん……」
出来ることならずっと傍にいたかった……。
どうか、奇跡を起こして。望みを叶えて。
真尋さんと幸せになってね……。
月は力のない私の願いも聞き入れてくれるだろうか。



