(いや、もう……本当に凄かった……)
志信くんが寝たのを確認すると、コソコソとベッドから起き上がって人知れず頬を赤く染める。
クールな振りをしておきながら、あれほどの情熱を隠し持っていたとは……。
身体のあちこちに残る愛の行為の爪痕が物語っている。
今までよくぞ無事でいられたものだ。
鈴花が言っていたようにお預けを食らわせていた私は鬼畜だったのか……?
代償をきっちり支払された今となっては、聞くのも憚られた。
私はベッドから降りると、皺が残らないように脱ぎっぱなしになっていた桜色の着物を折り畳んで部屋の脇に置いた。
素肌に襦袢を羽織って、虚空に呼びかける。
「豊姫」
豊姫は襖の奥から半透明の身体を浮かび上がらせた。
“本当にいいの?今ならまだ止められるわよ?”
取り出した橘を志信くんに与えるためには、心の奥深く、魂とも呼べる領域での交わりが必要だった。
……既に条件は満たした。
私は志信くんに抱かれることで自分の魂をさらけ出し、彼もそれに応えてくれた。
「いいの。お願い、橘を取り出して」
“わかった”
豊姫が私の左胸に手をかざすと、ぱあっと辺りが白く光った。
痣が燃えるように熱い。
光が収まり薄目を開けると、豊姫の右手の掌の上には白い花が乗せられていた。



