志信くんは月渡りの間で舞の練習に励んでいた。
月岩神社の冬の大祭は一年の無病息災を祈願する大事な行事だ。もちろん、志信くんは舞の奉納を任されている。
私と志信くんが再会したのは月岩神社の春の大祭のことだった。
季節は巡る。出逢いの春、決意の夏、迷いの秋、そして別れの冬へ。
約8ヵ月という月日は、長いとも短いとも言えた。
ひとつ、確かなことは志信くんと一緒に過ごした甘やかな日々が愛おしいということだけだ。
「どうした、小夜?」
向けられる極上の微笑みを手離したくないと思うのは我儘なのか。
おいでと伸ばされた手の先へと走り出す。
……私の中にあるのはいつだって志信くんへの強い想いだけだった。
志信くんの胸板に飛び込んで震える声で懇願する。
「私を抱いて」
「……どうした?」
「お願い……」
どうしようもないくらい切ないの。
だって、私は……。
「あなたを愛しているから」
……嘘でもいい。今は私だけを見つめていて欲しかった。



