冷たい北風が吹いても、豊姫の髪は決して揺れることはない。太陽の光に透ける身体は私達と同じ時を歩むことは出来ないのだということを否応がなしに見せつけている。
手が届きそうなほど近くにいても触れ合えない。私達の間には超えられない千年の隔たりがあった。
“私は小さい頃から身体が弱かったの。特に心の臓がね。庭を走り回ることも、感情を表に出すことすら弱ったこの身には毒だった”
豊姫の生きていた頃の記憶。
それは、美しい思い出ばかりに彩られているわけではなかった。
“生きていても何もかもがつまらなかったわ。私の世界は塀で囲まれた屋敷の奥、それもほとんど寝所だけだった”
好奇心旺盛な豊姫にとって、狭い寝所に押し込められることは苦痛でしかなかっただろう。思うようにならない身体を恨みながら広い世界に憧れを抱き続けていた日々は、リハビリに明け暮れていたあの頃の私と同じ気持ちに違いない。
「橘成典とはどうやって出逢ったの?」
成典の名前を口にすると、豊姫は穏やかに微笑んだ。
“成典様は兄の同僚のひとりだったの”



