志信くんは毎日三好屋の鈴花の所に行くことに難色を示したが、着付けを習うためだと正直に打ち明けると態度が軟化した。
鈴花は最初の約束通り着付けを教えてくれた。残された時間が少ないことも理解してくれていたので、ほぼつきっきりの指導となった。
若女将の指南は手厳しく、手順を間違える度に扇子で手を叩かれたおかげか、不器用な私でも何とか着物を一人で着られるようになった。
「落ち着いたら絶対に連絡すること!!でないと私もこの子も許さないんだから!!」
……母は強しとはこのことか。
お腹をポンッと叩いて豪語する鈴花とゆびきりげんまんで誓いを交わす。
赤ん坊が生まれたあかつきには、親友としてとびきり可愛い涎かけをプレゼントしよう。
それとも、カラフルなおくるみがいいかな?
これから訪れる未来へ思いを馳せると無限に広がる可能性を感じて、どうしようもなく心が浮き立つ。
スタートラインに立った時と同じ感覚だ。
もう一度、ここから始めてみよう。
ゴールテープを切るまでは誰が勝者か分からないように、人生は終わるまで何が起こるか分からない。



