今宵も、月と踊る


……時は瞬く間に過ぎていって、別れは刻一刻と迫ってきた。

「今までお世話になりました」

私が辞めるという話は出社終了を一週間前に控えた日に、会社の皆の知るところとなった。

直ぐに旅立つので送迎会は不要だということ、各種引継ぎの担当者に宜しく言うと、週に一度のミーティングは他に連絡事項もなく解散となった。

「桜木!!」

「波多野くん……どうしたの?」

波多野くんは徹夜明けなのか、目の下の隈が相当ひどいことになっていた。お得意の栄養ドリンクの効果はどうしたのか。

「本当に会社を辞めるのか?」

「うん」

「あいつはなんて言っているんだ?」

“あいつ”が誰を指しているのか、私には直ぐに分かった。

「彼には……話してないの」

……話す必要もない。

“橘”が手に入れば“カグヤ”の役目は終わる。その時、私がどこにいようと志信くんは気にしないだろう。

「引っ越して、住所も携帯の番号も変えるわ。彼とお別れしないと前に進めないから。これは自分のためなの」

「それで後悔しないのか?」

波多野くんに向かって微笑むと、おもむろに手を差し出す。

「栄養ドリンクの領収書、最後だから受理してあげる」

(後悔なんてしない)

……私に出来ることなんて、これくらいしかないのだ。