今宵も、月と踊る


神様に祈る時は自分の住所と名前を言うんだっけ?

まあ、いいや。

手を合わせて願うことはただひとつ。

(鈴花みたいに素敵な出逢いがありますように)

俊明さんのような素敵な男性に出逢えるならば、ぜひともあやかりたい。

もちろん、自分で努力する必要もある。気がのらないけれどお見合いでもしてみようか。

社長が新年会以来、ことあるごとにお見合いの話を持ってくるようになった。今までは断っていたけれど、写真くらい見てみようという気になる。

最後に一礼をして参拝を終えると、即座に身を翻す。

これから急いで友人の後を追わなければいけなかった。

二次会に向かう前に私も着替えないと、と慌てていたのが予期せぬ不幸を招くとは思いも寄らなかった。

「きゃっ!!」

……石段の最上段、着物の裾に足を取られた私の身体は、空中に投げ出されてしまったのだ。

(嘘でしょ!?)

石段の最下段までゆうに20段はある。転げ落ちたらただでは済まない。

自分の身体が落ちてく瞬間がスローモーションのようにゆっくり流れていく。

私は落下の衝撃を覚悟して、耐えるように固く目を瞑った。