(違う……)
頭をよぎった卑怯な考えを打ち消そうと首を横に振る。
私は……この期に及んで都合の悪い真実に遭遇した時のために、予防線を張っておきたいだけなのだ。
迷いは瞳を曇らせる。
たとえ志信くんが悪人だとしても許す、彼を信じると決めたではないか。
しっかりしろ、桜木小夜。
昔はこんなことで挫けるような女じゃなかったでしょう?
「開けろ」
朧先生はある部屋の前でようやく足を止めると襖を指差して、譲るようにその場から一歩下がった。
「でも……」
「真実が知りたいんだろう?つべこべ言わず開けるんだ」
朧先生はそう言い捨てて腕組みをしながら手すりにもたれかかると、頑として動こうとしなかった。
思わずごくりと唾を飲む。
この中に“真尋”がいるというのか?
(ええい、ままよ!!)
私は覚悟を決めて目を瞑ると、勢いよく両手で襖を開け放った。



