朧先生は私を一体どこに連れていくつもりなのだろう。
“ついてこい”と言ったきり、朧先生は一言もしゃべらなかった。月天の儀に伴って、他人払いをされた薄暗い本宅の廊下をふたりで黙って歩く。
先を行く広い背中は何も語ろうとしない。
他人の家とは思えないほど迷いのない足取りが余計に不安を煽っていく。
……志信くんに黙ってこんなことをして、本当に良かったのだろうか。
“真尋”の正体に近づいていくほどに、奈落の底へと向かっているような気がしてならない。
朧先生の言う真実を闇雲に受け入れてしまって良いのか?
彼が“真尋”に関して嘘をつかないという保証はない。
……朧先生は志信くんを憎んでいることを隠そうともしない。
感情のこもっていない冷たい視線は私を通して志信くんに注がれている。
彼を陥れるために何食わぬ顔で私を騙そうとする可能性だってゼロではない。



