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体調が回復しても私が志信くんに感じた不信感はなくなることはなかった。
それどころか、日が経つにつれますます大きくなるばかりだ。
私は秘されているという“真実”に翻弄され、“真尋”が志信くんにとってどういう人なのか知りたいという気持ちを抑えられずにいた。
そうこうする内に星が流れ月は巡り、今宵も“月天の儀”を迎える。
志信くんを待ちながら、この美しい庭を眺めるのは何度目になるだろう。
頼りない月明かりの中、手探りで彼の帰りを待つ時間は切なくもあり、愛おしくもあった。
冷たい空気との気温差で作り出された白い息を吐きながら、今日も誰かのために踊り続ける彼のことを想う。
「こんばんは」
庭園からひょっこり顔をだした人物を見ても、私は驚かなかった。
「こんばんは、朧先生」
くれぐれもまた風邪をこじらせないようにと、八重さんが用意してくれた電気毛布にくるまったまま挨拶をする。



