「どうした?」
志信くんの大きな掌が頬に触れた。
「何でもないの」
温もりを確かめるように目を瞑る。ただ傍にいられればいいとだけ思っていたのは遥か遠く、志信くんへの想いは日増しに募っていくばかりだった。
(何も聞かずにいれば、このままずっと一緒にいられるかしら……?)
「もう寝るか?」
急に食欲が失せてしまった私を見かねて、横になるように促される。志信くんは畳の上に胡坐をかいて、熱で温まったタオルを交換してくれた。目が合うと悪戯心満載の甘い声で誘惑される。
「添い寝でもしてやろうか?」
普段なら“バカなこと言わないで”と突っぱねるのに、高熱で弱っている身体と衰弱した心は正直だった。
「うん……して……」
志信くんは意外そうに目を丸めたかと思うと、ふっと表情を和らげて片腕を枕にして畳の上に横になった。
「珍しいこともあるもんだな」
そう言って楽しげに布団をリズムよく手でポンポンとたたく。私が眠りにつくまでこのまま付き添ってくれるつもりらしい。
……こんなに労わってもらって何が不満だというのだ。
どんなに優しくされたとしても志信くんの心の中には私以外の誰かがいると思うと、心穏やかではいられなかった。



