今宵も、月と踊る


「ありがとう、志信くん」

「早く、治せ」

志信くんが照れて口元を覆い隠しているのが可愛くて、顔がにやけてしまいそうになる。

早速プリンのパッケージを剥がしプラスチックのスプーンでカップからひとさじ掬い取って口に入れる。

「美味いか?」

「うん。熱はあっても食欲はあるの」

「食い意地が張っているって言うんだぞ」

「いいでしょう?健康的で」

スプーンを咥えながら開き直ると、志信くんは目を細めて笑っていた。

……こんな風に穏やかで幸せな日々が永遠に続いて欲しい。

私の願いは一方的なものなのだろうか。

“君は志信という男を信用し過ぎている”

朧先生の言っていたことがずしりと胃に重たくのしかかってきて、幸せを甘受しようとする愚かな心を戒める。

“真尋を覚えているか?”という問いに対して、志信くんはなんと答えるのだろう。

真尋という人物のことを志信くんから聞いたことはなかった。

志信くんとはどういう関係?男性?女性?

“真尋”という幻影がチラつく度に、目に見えない何かに首を絞められているようで息が苦しくなる。