「志信から何も聞かされていないのか?」
朧先生は混乱している私を見て、明らかに失望していた。
「君は志信という男を信用し過ぎているようだな」
「信用して……何が悪いの」
志信くんまでバカにされたような気がして負けじと反論すると、朧先生はさも楽しそうに私の耳元で囁いた。
「……真実が知りたくないか?」
(真実……?)
返事を待たずに再び耳元に唇を寄せられる。断ろうが頷こうが端から教える気でいたのだ。
「“真尋を覚えているか?”と、志信に尋ねるといい……」
靴を持ってきた八重さんの足音が近づいてくると、朧先生は元の紳士の仮面を顔に張り付け直して言った。
「それではお大事に」
……私は朧先生が帰った後も、その場からしばらく動くことが出来なかった。



