今宵も、月と踊る


「志信から何も聞かされていないのか?」

朧先生は混乱している私を見て、明らかに失望していた。

「君は志信という男を信用し過ぎているようだな」

「信用して……何が悪いの」

志信くんまでバカにされたような気がして負けじと反論すると、朧先生はさも楽しそうに私の耳元で囁いた。

「……真実が知りたくないか?」

(真実……?)

返事を待たずに再び耳元に唇を寄せられる。断ろうが頷こうが端から教える気でいたのだ。

「“真尋を覚えているか?”と、志信に尋ねるといい……」

靴を持ってきた八重さんの足音が近づいてくると、朧先生は元の紳士の仮面を顔に張り付け直して言った。

「それではお大事に」

……私は朧先生が帰った後も、その場からしばらく動くことが出来なかった。