今宵も、月と踊る


朧先生は先ほどまでの紳士的な態度をかなぐり捨てて、徐々に這い寄ってくる。

「な……ぜ……それを?」

蔑みと嘲りが同居する冷たい視線に身の危険を感じて布団の上を後ずさる。

「離れに住んでいる意味を考えれば、答えは自ずと導かれる。まさか……既に志信の元にいるとは知らなかったがな……」

壁際に追い詰められた私の顔の両側で、朧先生の逞しい腕が囲いを作る。

鼻先数センチ。今にも唇が触れ合いそうな距離で朧先生の瞳に、怯える自分の顔が映し出された。

「……“橘”を取り出す方法は見つかったのか?」

「た……ちばな……?」

私は震える声で尋ね返した。

“橘”とはこの胸に咲く橘の形をした痣のことだろうか。

(取り出す……?)

朧先生が何を言いたいのかさっぱり分からなかった。

最新の医療技術ならば痣くらい手術で簡単に消すことが出来るが、“取り出す”となると他にやり方があるのか?

そもそも、この痣は“カグヤ憑き”に見出された時に発現したものであり、通常の痣とは性質が異なるようにも思える。