今宵も、月と踊る


耳の下あたり、扁桃腺をふにふにと揉み、更に幾つか問診をすると朧先生はこう言った。

「典型的な風邪だな。疲れが溜まっていたのだろう。ゆっくり休むといい。あとで薬を届けさせよう。2日経っても熱が下がらなかったら、橘川病院に連絡するように。“楠瀬”の患者だと言えば伝わる」

“楠瀬 朧”……綺麗な名前だ。

朧先生はテーブルの上に広げた器具を診療バックにしまうと、不安そうな面持ちで診察を見守っていた八重さんを呼び寄せた。

「本宅の玄関に私の靴があるから取って来てもらえるか?」

「……かしこまりました」

八重さんが深々と一礼をして本宅へ向かうと、私と朧先生の間にしばし沈黙が流れる。

「あのう……。色々とありがとうございました。診察代は後日払わせて頂きます」

動けなくなった私を介抱してくれた上に、診察までしてくれたことに心の底から感謝して礼を述べる。

「金はいらない」

「でも……そういう訳には……」

朧先生は口の端を僅かに上げた。それはぞっとするほど蠱惑的な笑みだった。

「どうしてもと言うなら身体で払ってもらおう、“カグヤ”……」