今宵も、月と踊る


「口を開けて」

そう言われて、お医者様にかかる時の独特の緊張感が背中に走る。

ペンライトで口の中を照らされ鉄の板の様なもので舌を押さえつけられると、喉の奥の腫れ具合を確かめられた。慣れた手つきで喉に苦い薬を塗りつけられる。

(本物のお医者様だ……)

医者だと自ら名乗った男性のことを疑っていた訳ではないが、医者らしからぬ際立った風貌が誤解を招いていたのもまた事実である。

彫りの深い顔立ち、鋭く射抜くような眼差、ワックスで固めたオールバックは何物にも屈しない強い意志の力を示している。

淡いブルーのシャツに黒のスラックスという至ってシンプルな服装の中に隠された見事な体躯は、どれほどの女性を夢中にさせてきただろうか。

白衣を着ていなかったら、モデルや俳優に間違われても不思議ではない。

そんな素敵な人に抱き上げて運んでもらったというのに、志信くんほどには心がざわめかない。

……私をどろどろに蕩けさせることが出来るのはいつだって志信くんだけだった。