今宵も、月と踊る


「まあ小夜様!!」

八重さんは砂埃にまみれた私を見るなり小さく悲鳴を上げた。

体力の限界を迎えていた私はタイミング悪く遭遇してしまった男性に抱きかかえられて離れに帰還した。

(情けない……)

寝間着同然の姿で走り回った挙句、初対面の男性にまで面倒をかけるなんて。

「彼女の寝床はその部屋で合っているか?」

男性は部屋の中に敷かれた布団を顎で示すと、明らかに八重さんの眉間に皺が寄った。

「朧様、あなたがなぜ小夜様と?」

「お小言より病人を休ませる方が先だろう?」

(おぼろ……?)

知り合いらしい二人の会話に口を挟む余裕もなく、ゴホゴホと咳が出て息が苦しくなる。

「まったく、こんなに真っ赤な顔しているというのに……無茶をする」

八重さんに朧と呼ばれた男性は呆れたようにため息をつくと、スタスタと歩みを進めて私を布団の上に降ろした。

「熱は測ったのか?咳は?喉の痛みあるか?」

矢継ぎ早に質問されて、つい面喰ってしまう。

「私はこれでも橘川病院で働く医者だ。君もついでに見てやろう」

……どうやら、白衣は飾りではなかったらしい。