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濃い緑の匂いに誘われるように目を開けると、私はいつか志信くんに連れて行ってもらった草原に佇んでいた。
眼下には青と緑の素晴らしいコントラスト。今とは真逆の夏の景色だった。
(夢か……)
夢の中だというのにこれが夢だと悟るのは、なんとも奇妙で不思議な心地だった。
折角だからと裸足で駆け出すと驚くほど足が軽くて、このままどこまでも走って行けそうな気持ちになる。
夏のボーナスをはたいて買った白いワンピースは大きく風を受け、優雅にはためいている。
背中を反らせ飛び跳ねながらステップを踏む度に、ふわりと身体が宙を舞う。
草原の一角に集められていた花びらを手で掬って青空にばらまくとカラフルな虹ができた。
……風邪をこじらせているなんて嘘みたいだった。
ふかふかの草むらの上に寝転がって空を仰いでいると、とても気分が良かった。私はすっかりこの夢を満喫していた。
……何もかもを台無しにするあの声を聞くまでは。
“あら、あんなところにいつまでも座っているから風邪なんか引くのよ?”



