「夜に比べたら大分良くなったと思います」
「それは良かったです」
カーディガンを羽織って起き上がると、八重さんはスポーツドリンクを注いだグラスにストローを挿して渡してくれた。
「夜中に血相を変えた志信様がやって来た時はどうなることかと思いましたわ」
昨夜の志信くんの動転振りを思い出したのか、八重さんはクスクスと笑みを零した。
「ご迷惑をおかけしてすいませんでした……」
……恥ずかしさのあまり顔から火が出るかと思った。
出来ることならご迷惑をおかけした人達全員に謝り倒したい。
志信くんは夜中だというのに八重さんをはじめとする住み込みの使用人さんを全員起こして総出で私の看病に当たらせたのだ。
(志信くんって、時々ものすごーく過保護になるのよね!!)
風邪ひとつでこんなに大事になるなら、今後は絶対に体調不良にはなるまい。
志信くんを見返すためにも早く元気にならないと。
私はスポーツドリンクを一気に飲み干すと、空になったグラスを八重さんに返した。
「何はともあれ、大事がなくて良かったです。お昼はお粥をお持ちしようと思っておりますが、食べられそうですか?」
「はい」
「お医者様がいらっしゃったらお呼びしますから、それまでゆっくり寝ていらしてくださいね」
何かあったら必ず呼び鈴を鳴らすように念を押して、八重さんは部屋から下がっていった。
久方ぶりに訪れたひとり寝の安心感からか、私は八重さんの言うようにぐっすりと寝入ってしまった。



