「もしもし、桜木です。熱が出てしまいまして……。2、3日で治るとは思うんですけど……。すいません。よろしくお願いします」
通話が終わるとふうっと一息ついて寝返りでずれた額のタオルを元に戻し天井の木目をひたすら数える。
職場に欠勤の電話を入れ終わればあとは養生するだけだ。
幸いなことに離れは静かに養生するにはもってこいの娯楽の少ない閉鎖空間だった。
(静かだわ……)
昼間だというのに物音ひとつ聞こえず、塀の内側には誰もいないような錯覚をしてしまいそうだ。
そういえば、志信くん以外に本宅に住んでいる人の話を聞いたことがない。
(ご両親や、兄弟は一緒に住んでいないのかしら)
まさか、この広い屋敷にひとりきりということはないだろう。
(いや、でも……ありえるかも)
うーんと頭を抱えて悩んでいると襖から控えめなノックの音がしたので、どうぞと返事をする。
「小夜様、お身体の調子はどうですか?」
八重さんは水やスポーツドリンク、ゼリーといった、病人にとっては有難い代物の数々を載せた盆を下げてやってきた。
喉が渇いていたところだったので丁度良かった。



