「俺も早く帰って来るから、大人しく寝ていろ」
「わかった……」
今日ばかりは素直に志信くんの言うことに従うことにする。逆らおうにもその気力だって湧かない。
熱で火照る身体で寝返りを打つと、頬にかかった髪を払う志信くんの指先を近くに感じた。
「あまり心配させるな」
指先が頬を伝って顎を持ち上げる。
いってらっしゃいのキスは私の体調を慮ってか、触れるだけの優しいものだった。
「いってくる」
「いってらっしゃい」
講義に行くという志信くんを見送るとゆっくり目を瞑った。いつもは見送られる側なのに、逆なのが無性に可笑しい。新婚の夫婦のような会話がくすぐったかった。
おっと、いけない、いけない。浮かれている場合ではなかった。
心配性な旦那様のためにも、早く職場に休む旨を連絡しなくては。
思い立つと同時に横になりながら携帯を操作して職場に電話を掛ける。



