……終わったと思っていた夢が大きく形を変えて再び戻ってきた。
私は吉池さんにもらった名刺を握りしめながら、縁側に腰掛けて庭を見つめていた。
サラサラと気持ちの良いせせらぎとともに、闇を切り裂くような鋭い風の音がする。寒さをものともせず懸命に色づく花には夜露が滴り月の光を反射している。
この日本庭園はどれほどの季節が過ぎようとも、色褪せたりしないように思えた。
……けれど、変わらないものなどこの世にあるのだろうか。
少なくとも吉池さんは自身もアキレス腱を切ってから、私に対する認識を改めた。
私にも時が経つにつれて徐々に分かってきたことがある。
怪我をした時、本当に辛かった。
大会には出られないと宣告されても諦めきれずリハビリに励んだにも関わらず、神様は私に決して微笑んではくれなかった。
怪我の回復は思わしくなく、他人が走る様を見ることも辛くなって、全てを捨てた。ユニフォームもトロフィーも実家の薄暗い倉庫の中に詰め込んで蓋をした。
もう二度と振り返ったりしないと決めたはずなのに……。
吉池さんの話に心が揺れ動くのをとめられそうにない。
……結局、私は走ることしか取り柄がない女なのだ。



