「随分、回りくどいことをするのね……?」
誘われたからといってノコノコやってくる私も私だが、他人の名を使って雑誌を送るつけてきた彼女も彼女だ。
吉池さんは何のために私を食事に誘ったのか。
(どうしてこんなにイラつくのかしら……)
注文した料理達が運ばれてくると、これ幸いとばかりに小皿に取り分ける。
他のことに意識を集中していないと余計なことを口走りそうだった。思い出話に花を咲かせるどころか、このままだと険悪な雰囲気になりかねない。
「呼び出しに応じてくれたってことは、少なからず陸上の世界に未練があるんじゃないの?」
彼女は小皿の上にフォークを置くと、ナプキンで丁寧に口元を拭った。
「あなた、コーチをやってみる気ない?」
私は動揺のあまり少々乱暴な音をたてて、小皿の上にフォークを置いてしまった。
吉池さんは淡々と話を続けた。
「母校の監督がコーチを探していてね。構わないから誰か紹介してくれって頼まれているの。私は桜木さんを推薦するつもりよ」
「私が……コーチ?」



