今宵も、月と踊る


「志信くんは神様と同じ力を持っていても、神様じゃない。普通の人間よ」

小夜はそう言って畳に本を伏せると、膝立ちになって寄り添うように俺の頭を胸に抱いた。

「いいのよ。何もかもひとりで背負い込もうとしなくて」

小夜の言葉を聞いてふっと力が抜ける。

(救いを求めていたのは俺の方だったのかもしれない……)

小夜の腰に腕を回して掻き抱く。橘の痣がある胸元に擦り寄ると、みずみずしい柑橘系の匂いがした。

深い闇の中で小夜だけが俺を見つけてくれた。迷いそうなときには手を引いて、こちらだと導いてくれた。

誰が何と言おうと小夜は俺だけの女だ。他の男に渡すものか。

(……神様)

俺にまだ祈る資格はあるだろうか。

最初で最後の願いだ。

もう一度、小夜を走らせてやりたい。