今宵も、月と踊る


「どうしたの?」

本を読んでいた小夜が落ち着かない様子で、俺の顔を覗き込んでいた。

ん?と少しだけ首を傾げて尋ねる様子は少女のように可憐だ。夏の間、小夜が着ていた白いワンピースを思い起こさせる。

「何でもない」

「嘘。何かあったんでしょう?」

「俺だって疲れることくらいあるさ」

昨夜の“月天の儀”はそれほどまでに酷い有様だった。

とある有名政治家の胃に見つかった癌を身体から取り除くという依頼だったにも関わらず、味方であるはずの取巻き達は保身に走り、引退を求める反対派と口汚く互いを罵り合っていた。

人目を憚らず繰り広げられる大音量に、感情を滅多に表に出さない正宗が眉をひそめるほどであった。

当然、儀式は中断を余儀なくされ、すべてが終わった頃には明け方になっていた。

こういう連中を相手にしていると……時々、途方もない虚しさを感じる。

名も知らぬ誰かを救える力があっても、本当に助けたいと思った人にはいつも手が届かない。がむしゃらに伸ばした手は空を切り、居場所をなくして彷徨うばかりだ。