「お館様に“カグヤ”が見つかったことは報告されないのですか?」
祖父の部屋から月渡りの間に戻る途中、正宗はかねてから疑問に思っていただろう事柄を口にした。
「わざわざ教えてやる必要はない」
祖父が床に臥せてからというもの、その威光は徐々に薄れ始めている。“カグヤ憑き”である俺の怒りを買ってまで、わざわざ告げ口するような使用人はいない。
「志信さんは離れのお方をどうされるおつもりですか」
「どういう意味だ?」
「一生離れに閉じ込めるおつもりですか」
それは、一時の感情で小夜をこの地に縛り付けたことを責めているようにも聞こえる。
正宗に忠告されるまでもなく、自分の行動が人道を外れていることは分かっていた。
「口が過ぎるぞ」
「申し訳……ありませんでした」
正宗は唇を噛みしめながら頭を下げた。“カグヤ憑き”と“カグヤ”の行く末を心配せずにはいられないのだろう。
……俺は小夜を自分の目的のために利用しようとしているのだから。
「正宗」
瞳を閉じればあの日の惨状が瞼の裏に浮かぶ。
「俺は“真尋”を忘れたことは一度もない」



