「出来たぞ」
そうこうしている内に帯も締め終わり、着付けが完成した。
小夜にも見えるように姿見の前まで連れて行って、肩に手を置き同じように鏡を覗き込む。
「……綺麗だ」
桜色の着物に身を包んだ小夜に手放しの賛辞を贈る。
「き、着物がね……」
鏡越しに目が合うと小夜は照れたように顔を伏せ、しどろもどろになって否定する。
「褒め言葉くらい素直に受け取れよ」
顎を持ち上げひねくれたことしか言わない口をそっと塞いで、華奢な身体を腕の中に閉じ込める。
恋焦がれた女が目の前にいる。それだけで幸福過ぎて眩暈を起こしそうだった。
(……夢の中にいるようだ)
俺の選んだ着物を着て、俺の言葉に頬を染め、俺のキスに応える。
夢にまで見た逢瀬は俺をどんどん臆病にさせていく。
時々、本当はすべて夢なんじゃないかと疑ってしまう。
俺はまだ布団で寝ていて、目覚めたらこの温もりも消えてなくなってしまうのではと恐ろしくなる。
その度に、こちらが現実だと、目の前にいるのは本物の“カグヤ”だと確かめるように小夜に触れる。



