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「あーびっくりした。突然、脱げって言うんだもん」
長襦袢を着て俺の真正面に立った小夜は、大袈裟にヘソを曲げて不満を語る。
「動くなよ」
羽織った着物の背中心が真っ直ぐになるように袖口を軽く引く。縫い目が背骨に沿っているかどうかで見栄えが全然違う。
「志信くんって女性用の着付けも出来るの?」
「一通りのことは出来るように訓練されている」
上前の幅を決めたら下前を合わせて腰紐を結ぶ。お端折りを作って、掛け衿を合わせ、下前衿を留め、全体を整えたら伊達締めをつける。
「ホントに何でもできちゃうんだから……。私も八重さんか鈴花に習ってみようかな」
対抗心を燃やし腕を組んで悩む様子に口元がほころぶ。
俺としてはどちらでも構わないが、男性に着付けてもらうのは女性としてのプライドが許さないのかもしれない。



