今宵も、月と踊る


「これぐらいの軽口で余裕をなくすなんて、あなたらしくもないですね。やはり“カグヤ”は特別ですか?」

嫌味ったらしくフレームを押さえて眼鏡の位置を直す仕草が癇に障る。お目付け役など不要だと言ったところで、俺の意思が尊重された試しがない。

“カグヤ”の存在を欲深い連中には悟らせるなという命令もどこまで守られているのか怪しいところだ。

あいつらは自分の欲望を満たすためならどんなことでもする。俺を従わせるために小夜に手を出すことも厭わない。

「志信さん。この後、懇親会に誘われているのですが、いかが致しましょうか」

分かりきったことを聞くなと正宗を睨む。どうせ、懇親会という名の品定め会だろう。

「帰りは三好屋に寄る」

「承知致しました。適当に断っておきます」

小夜には講義が始まる前に一言だけ“心配するな”と簡素なメールを返した。