今宵も、月と踊る


“ちゃんと大学に行ったの?”

小夜から出席を心配するメールが届くと、苦笑いを浮かべる。

(子供じゃあるまいし、いちいち連絡するか?)

まあ、気に掛けられて悪い気はしないが……。

「お早いですね、志信さん」

「早く行けと追い出されたからな」

講義室の固い椅子に腰掛けて小夜へ返信する文面を作っていると、正宗が目聡く空いていた隣の席にやって来る。

「“離れのお方”が真っ当なお人で嬉しいですよ、俺は」

「うるさい。お前があいつを語るな」

“離れのお方”などと回りくどい言い方でいちいち俺をからかうのは、橘川家の関係者と言えど正宗だけだろう。

先祖代々、橘川家に仕える“蓮田”の末裔である正宗は、内情を知っているという点で赤の他人よりよほど厄介である。

幼い頃から姉の八重と共に橘川家に出入りしていた正宗にとって、俺をからかうことなど朝飯前だった。