俺が通っている大学は家から車で30分ほどの距離にある。これといった特長のない私立大をあえて選んだのは家から近いという極めて単純な理由からだった。
医者の道を志したのだって、医者以外のものになるための理由を考えるのが億劫だったからだ。
橘川の病院を継ぐのは必然的に俺の役目だったし、橘川家を捨ててまで貫き通したいほどの信念などない。例えあったとしても、祖父や他の人間にことごとく潰されるに決まっている。
“カグヤ憑き”の噂は有力者の間では広く知られていた。祈祷料と言う名の法外な報酬なしでは病院の経営も立ち行かないほどに。
結局、俺には“カグヤ憑き”として生きる道以外は用意されていないのだ。
決められた人生の中での唯一の救いは、義務づけられた舞が性に合っていたということだろう。
舞っている間だけはささくれだった心が静まり、己を取り巻く環境のことも忘れられた。



