「離して……」
「離さない」
そう囁くと小さくて可愛い耳朶を甘噛みする。清々しい朝の景色とはとても思えない濃密な空気に頭がクラクラしそうだ。
そもそも20歳の健康優良児と半同居生活を送っておいて、何事もなく過ごせると思っている方がおかしい。
ここに残るということは“カグヤ”として、“カグヤ憑き”の全てを受け入れるということだ。
“カグヤ”――“カグヤ憑き”にとって唯一無二の女。
こうしている今でも飢餓感は治まらない。それどころか、小夜がよそよそしい態度をとっていた頃よりも募っていく一方だった。
思わず熱いため息を零す。
「このままずっとこうしていたい……」
「……ダメに決まっているでしょう!?」
ピシャリと跳ね除けた小夜は渾身の力で俺を引き剥がし、背中を押して部屋の中から締め出すと強い口調で言った。
「あなたは大学、私は会社。いい?サボっちゃダメだからね!!」
閉められた襖が壁のように立ちふさがる。
そう、俺達は……いつも肝心なところですれ違うのだ。



