「女将さん!!お茶なら私が運びます!!」
鈴花は慌てて女性から盆を受け取ると、大広間のあちこちにあるテーブルセットの一つに置いた。
「紹介するね。俊明さんのお母様で、三好屋の女将さんの百合子さん」
「女将の百合子です。ゆっくり選んでいってちょうだいね」
「ありがとうございます」
畳に手をついてお辞儀をする動作が流れるようで、私も思わず居住まいを正した。
女将さんは頭を上げると、今度は鈴花を窘め始めた。
「鈴花さん。あなたの結婚式に着ていくお着物なんですから、キチンと選んで差し上げなさい」
「すみません。ついはしゃいでしまいました」
どうやら、遠巻きに振袖に関するやり取りを見られていたようだ。仕事に徹しきれていない若女将を叱るのも、女将の役目なのだろう。
けれど、鈴花を見る瞳には慈愛が溢れていて、純粋に成長を見守っているのが分かった。
嫁・姑問題が家庭内で不和を招く事例は山ほどあるが、三好家には無縁のようだ。



