「志信くん?」
「俺はあんたに謝らないといけないことがある」
それは、消え入りそうなほどか細い声だった。
心許ない様子に慌てて振り返ろうとしたが、そのまま聞いて欲しいという志信くんのお願いに逆らえなかった。
鎖骨の辺りで交差している腕に更に力がこもっていく。
「あんたが割った壺が五千万もするって話は嘘だ。あれは亡くなった先々代のカグヤ憑きが趣味で作ったガラクタに過ぎない。人間国宝ということに間違いはないが資産価値はゼロに等しい」
突然の告白に私は目を丸くするばかりだった。
(それって……つまり……)
「あんたは自由だ。誰もここにいることを強制することは出来ない」
自由だと言う一方で、志信くんがこの甘い拘束を解く気配はなかった。
……どこにも行くなと全身で叫んでいるようだった。
(不器用ね……)
壺の話をすることは志信くんにとって諸刃の剣だったはずだ。
“カグヤ”を拘束する理由を手離してまで手に入れたかったのは、信用という名の新たな絆。
黙っていれば分からなかったのにあえて真実を打ち明けてくれた誠実さに、愛おしさが胸に広がっていく。



