今宵も、月と踊る


私の振袖に対するイメージは完全に成人式で止まっている。

華やかな色使いや、そこかしこに散りばめられた豪奢な花々は若い女性が着るのに相応しい。

私の目には慎ましい色合いの訪問着の方が好ましく映った。

持ってきてもらった振袖を見てもその考えは変わらず鈴花に丁重に断りを入れると、さも残念そうに肩を落とされる。

「似合うと思うのに……」

……まったく、誰の為に衣装を選んでいるのかを思い出して欲しいものだ。

気を取り直して再度、着物を選び直す。

「やっぱりこの薄紫色のやつかな……」

「それは白藤色というんですよ」

指差した着物の色を訂正したのは、鈴花とは異なる声だった。

後ろを振り返ると気品の中に風格を漂わせた白髪交じりの女性が湯呑をのせた盆を持って立っていた。