今宵も、月と踊る


<俺を信じて欲しい>

志信くんの声が頭の中でこだますると、もやがかかっていた視界がパッと開けたような心地がした。

豊姫から身体を離して、正面に向き直る。

「志信くんは……他の“カグヤ憑き”と違うわ……」

私には分かった。

志信くんは醜い傷痕を厭わず優しく撫でてくれた。年のことなんか気にせず名前を呼んでくれた。身体の芯まで蕩けるような甘いキスをくれた。

どれも、嘘なんかじゃない。私にとってかけがえのない真実だった。

“小夜、あなた……?”

豊姫が驚きの詰まった表情で私を見ている。

(ごめんね)

心の中でひたすら詫びる。

……もう、迷わない。

たとえ、彼が極悪非道な人間だとしても、それすら許してしまえる。

「行かなきゃ……」

私は、信じて欲しいと言った志信くんを信じる。