(いつの間に……)
知らされていなかったのは私だけだったのか。
志信くんは用が済むと、合図を送って八重さんを下がらせた。
「じゃあ、百歩譲って橘川家にいることは説明できたとして、一緒に三好屋に行ったことはどう開き直るつもりなの?」
「あちらで勝手に解釈するだろう」
「“勝手に”って……」
ニッと微笑みかけられると、そこはかとなく嫌な予感がしてくる。
「“身分違い”なんて、いかにも女が好きそうなシチュエーションだと思わないか?」
同意を求められても困る。
志信くんは雇用主と使用人という設定がいたく気に入っているご様子。
「それだと、志信くんは使用人に手を出そうとするとんでもない輩っていうことになるけど……」
「余計なことは気にするな。精々、我儘お坊ちゃんの気まぐれに振り回されている演技でもしていればいい」
バカバカしい設定でも運命の相手に選ばれたという伝説よりはマシに思えるから質が悪い。
(複……雑……)
「帰りは迎えに行くからな。この間のデートの続きだ」
段々と志信くんに逆らえなくなっていることを自覚しながら私はゆっくりと頷いた。



