「行って来れば?」
驚いたことに志信くんから初めて外出の許可が出る。
寛容になってくれたことは嬉しいがこの場合、志信くんがダメと言えば気兼ねなく断れたものを……。
空気を読めと声を大にして言ってやりたい気持ちをぐっとこらえて尋ねる。
「どうやって橘川家に住んでいることを説明しろと……?」
こちとら、五千万の壺のことも、“カグヤ”と“カグヤ憑き”のことも省いて説明できる程、頭の出来が良い訳ではない。
しかも、隠す相手は10年近くも付き合いのある鈴花だ。中途半端な嘘は速攻でばれる。
「それなら問題ない」
志信くんはそう言うと、使用人を呼ぶための呼び鈴を鳴らした。
ほどなくして襖がスッと開いて、頭を下げた八重さんが現れる。
「お呼びでしょうか?」
「離れの“客人”の事は外部に漏れていないな?」
「はい。小夜様は表向きではこの離れに滞在されている“客人”をもてなすために雇われた住み込みの使用人ということになっております」
「だそうだ」
志信くんは八重さんの答えを聞くと、さも楽しげな笑みを浮かべた。



