腰を抜かした私を不憫に思ったのか、“カグヤ”の力への期待に添えなかったのかは分からない。
志信くんは何も言わない。辛いとも、辞めたいとも口に出さない。
彼は若いながらに己の背負っている“カグヤ憑き”という運命を受け入れている。
毎月、押し寄せてくる助けを求む声を拒んだりはしない。
……なんて尊いのだろう。
私には到底真似できない。
ならば、せめて“月天の儀”の夜は志信くんが離れに帰って来るのを待とうと決めた。
誤算だったのは“ただ待つ”という行為がこれほど退屈だとは思っていなかったという点だ。
志信くんが“月天の儀”と執り行っている間は、読書をしようが、ネットサーフィンをしようが気持ちが休まることはない。
私は食べかけのアイスを脇に置いて、ジワリと滲んできた汗を団扇であおいだ。
そのまま廊下に倒れこんで背中をつけると、浴衣越しにひんやりとした冷気が伝わってきた。
これ幸いと、涼を求めるようにだらしなく寝そべっていると足音が聞こえてきて、着替えを済ませた志信くんがやって来た。



