今宵も、月と踊る


庭に浮かぶ月の神気の塊。それはまるで蛍の光のようだ。

手を伸ばして掴んでしまえば消えてしまいそうな優しい光は、この奥まった離れからも良く見えた。

庭園の池に浮かんだいくつもの光は、やがて彼の手によって一ヵ所に集められていく。

今日も志信くんはあの場所に立って、願いをかけ続けている。

私は庭に面した縁側に腰掛けて、仕事帰りにコンビニで買ったカップのバニラアイスを口に運んだ。

今宵の月は薄雲がかかっていて、良く見えない。

“月天の儀”に必要なのは満月と“カグヤ憑き”。雨が降ろうが、台風が来ようが月の見え方に関しては誰も気に留めないらしい。

(上手く行ったかしら……)

“月天の儀”が行われている間、部屋の明かりを落とされているのは本宅だけではない。

私を暗闇から守ってくれるのは足元にある小さな燭台だけだった。

……志信くんは“月天の儀”への立会を強要しなかった。