(安心して……私は志信くんを好きにならないわ……)
豊姫に警告されるまでもない。
これ以上、踏み込んではいけないことは分かっているから。
キスをしてしまったのは、雰囲気にのせられただけ。戒めるように、己にきつく言い聞かせる。
この気持ちは、決して恋なんかじゃない。
28歳の女性が20歳の青年に抱く感情としては相応しくない。
年齢のことを考えると、次にお付き合いする人と結婚することになるだろう。
私に残された時間はあまりにも少なかった。
だからこそ、最後の恋の相手は慎重に選ぶべきなのだ。
求婚を断ってしまった彼のことを思い出すと今でも胸が痛む。
5年も付き合ったというのに欠片も愛せなかった、哀れな元恋人。
「ありがとうございました」
やる気のない店員の声に見送られて、涼しいコンビニから外に出る。
相応しい恋の相手なんて本当に見つかるのかしら?
……私の身体には未だに運命という名の鎖が絡みついているというのに。
そして、今宵もまた。
満月がやって来る。



