今宵も、月と踊る


アスファルトにゆらめく陽炎が本格的な夏の訪れを静かに告げている。

会社から郵便局までは歩いて10分ほどの距離である。その間に真夏の強烈な日差しから身を守ってくれるような建物はない。

私はブラウスの襟元を持って、じわりと滲んでくる汗を乾かすように風を送った。

(あつ……)

私は日傘の陰に隠れて、どうにか夏の暑さと紫外線をやり過ごした。

小麦色の肌がもてはやされたのは、随分と昔のことで、今は何事も美白美白とやかましい。

私もその例にもれず、UV対策はバッチリだ。

……昔は日焼けなんか気にしたことなかったのに。

人は変わるものだ。良くも悪くも。

陸上選手として活躍した“桜木小夜”はもはや見る影もない。