今宵も、月と踊る


大学生の頃からの鈴花の口癖だったのだ。

“私が結婚する時は、絶対に小夜に着物を着てもらう”

結婚式だけでは飽き足らず、友人の晴れ姿までプロデュースするつもりなのだ。

まあ、主役である花嫁の希望に応えないわけにはいかないからね。

『着物のレンタルは、ぜひ我が“三好屋”にお任せください』

「もう、鈴花は本当に商売上手よね」

鈴花の弾んだ声を聞いてしまえば、到底抵抗する気など起きない。

バッグから手帳を取り出して予定を確認すると、2週間後の土曜日に訪問する旨を伝えて通話を終える。

私は招待状をテレビボードの引き出しに大事にしまうと、コートを着たままベッドにゴロンと横になった。

なんだか胸が一杯になってしまった。アボカド味のポテチなど買う必要もなかった。

……鈴花が結婚する。

これまで友人の結婚を何度も見送ってきたというのに、どうしてか初めてのことのように寂しかった。