「私ね、運命って言葉が少し苦手なの」
ペットボトルを握る手にぎゅっと力を込める。
「驚くかもしれないけれど、昔はちょっと名の知れた陸上の選手だったのよ」
……このことを自分から他人に話すのは初めてだった。
短距離走、100メートル。
高校時代はインターハイ、大学時代はインカレにも出場して、順風満帆な競技生活だったと言えるだろう。
温かい応援に包まれて、スタートラインで手を振るのは私の役目だった。
弾けるスターターの音に耳を澄ませる時間が好きだった。地面を蹴って風と共にトラックを駆け抜ける。ゴールテープを切る快感は何ものにも代えがたかった。
けれど、栄光は過去の物にすぎない。
「アキレス腱を切ったのは大学3年生の時だったわ」
大事な大会を2週間後に控えた、練習中のことだった。
自分の足の腱が切れた瞬間、あまりの痛さに足をもぎ取られたような感覚に陥って冷や汗をかきながらその場に蹲ることしか出来なかった。
私はトレーニングウェアのまま、直ぐに病院に連れていかれた。
医者は足の様子を見ると、僅かばかり残っていた希望を粉々に打ち砕いた。
“2週間後の大会には間に合わない”



