今宵も、月と踊る


(あーあ……。何でムキになっちゃったんだろう……)

いい歳こいた大人が拗ねるなんて、みっともない。素直に「ありがとう」と言ってしまえば良かったのに。

(まあ、私が志信くんにお説教できる立場にないのはわかっているけどね)

ようやくたどり着いた駐車場に停めてあった車に乗りこんで、反省しながらシートベルトを締める。

けれど、待っていても車は一向に発進しなかった。

「志信くん?」

志信くんはハンドルにもたれて顔を伏せていた。

具合でも悪いのかと聞こうかと思ったその時、思いもよらないことを口にされる。

「要らないなんて言うなよ。俺は……ただ、あんたの着物姿をもう一度見たいと思っただけだ」

「え……?」

「知らないだろう?俺にはあんたがどういう風に見えているか……」

志信くんはそう言って、運転席から身体を乗り出して私の首筋に唇を押し当てた。

一瞬だけ見つめ合った瞳には、いつかのような静かな情熱と憂いが湛えられていた。

「もう一か所、付き合ってくれ」