今宵も、月と踊る


「遅い」

座敷から戻ってくると、志信くんが仏頂面で待っていた。

……鈴花に質問攻めにされたのは誰のせいだと思っているんだ。

呆れながら言い返そうとすると、俊明さんが私達の間を取り持った。

「まあまあ、志信くん。女性を待つのも男性の楽しみのひとつですよ」

志信くんを窘めるその姿は年長者らしい余裕が見え隠れしていて、私も思わず唸ってしまった。

(鈴花ってば、本当に良い人と結婚したなあ……)


「行くぞ」

「あ、お邪魔しました!!」

来た時と同じように志信くんが手を引っ張ってしまうので、私は言い逃げのような形で三好屋を後にした。

「反物のサンプルが届いたら連絡しますね」

俊明さんは無作法な私達に手を振ってにこやかに送り出すと、深々とお辞儀をした。