「あの、どうも……」
「小夜さん……?」
俊明さんは銀縁眼鏡の向こう側の目をしばたたかせた。お願いだから何も聞かないで欲しいと目線で訴える。
「着物を仕立ててやって欲しい」
志信くんがそう言うと俊明さんは私達の顔を交互に見比べ、納得したかのようにポンと手を叩いた。
「かしこまりました。さあ、中にどうぞ」
さすが、商売人。
お客さんの個人的な事情には一切触れない姿勢は尊敬に値します。
嫁の鈴花にも同じ姿勢を期待したいところだが、まあ無理だろう。
「小夜……?」
鈴花は志信くんと並んで三好屋に入ってきた私を見るなり怪訝な顔をした。
……ほら、やっぱり無理だった。
今にも私の首元を掴んでガクガクゆすりそうな鈴花を制したのは俊明さんだった。
「鈴花、お仕立て用に小夜さんの寸法を測ってもらえるかい?」
「ええ、わかったわ……」
私は鈴花の案内で奥の座敷に連れていかれた。
男ふたりが見えなくなると、鈴花はこれまで出したことのないようなドスの効いた声で言った。
「後でじっくりたっぷり包み隠さず話してもらいますからね!!」
「わかった、わかったから!!」
怒った鈴花は鬼よりも怖い。



